Oさんは百貨店に勤務する46歳のサラリーマンだ。大病の経験はなく、ゴルフも人並みの腕前で、健康そのものと自負している。
身長168センチで体重が95キロと親譲りの肥満体だが、気にしたことはない。
ある日のこと、夕方のお客で店が混雑し始め、緊張感が高まってきたとき、突然右手の指先がしびれ、感覚がわからなくなった。
売り場責任者が定時報告のため話しかけてきたのに、口がもごもごとして思うように言葉が出ない。けげん顔の責任者に「わかった」というそぶりでオーバーに左手を振って、
その場をあわてて離れた。
立ったり歩いたりには支障はなかったが、何かたいへんな病気ではと不安に思い、その足で会社の診療所を受信。正確な症状を告げなかったので「血圧が高いよ」
とだけいわれ、薬をもらって退杜した。就寝前には右手のしびれと話し方はやや改善し、ホッとした。
翌日は通常どおりに出勤、時問をつくって病院に行ったのが発症して3日後のこと。不思議な体験を医師に話すと、ただちに採決・検査された。高血圧と糖尿病のほか、
コレステロールと尿酸値が高く、さらに軽度の腎機能障害もあるという。脳のコンピューター断層撮影で小さいが出血性梗塞と診断された。「3日も放置していたのに、
よくぞ出血が拡大しませんでしたね」と妙に感心され、ただちに入院となった。
入院後、血管のエコー検査で60代並みに動脈硬化が進んでいると指摘され、Oさんは一瞬にして老け込んだ気になった。口やかましそうな女性看護師長さんからは
「生活態度が悪い」と強く注意される。考えてみれば、職責上夜遅くまで仕事をし、食事は不規則・簡便が常で、アルコールも人並み以上、タバコは日に30本。これに高血圧、
糖尿病、高脂血症、肥満、腎機能障害が加わっているのだから、「動脈硬化の見本」のような人物である。
あれこれ注意され落ち込んだものの、徐々に体力は回復、入院2週目には元気な体に戻った。「これでまた今まで以上に働けます」と白信を深め、
若い女性看護師さんにしかられる懲りないOさんであった。
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