証券会杜に勤める43歳のJさんは健康でここ数年は健診も受けていなかった。たまたま感冒で近くの病院に行ったところ、
たんぱく尿と高脂血症を指摘され大学病院を訪れた。
話をよく聞くと、最近、しばしば夕方になると下肢のむくみがあることに気づいていたという。起床時に顔が腫れぼったくないかと尋ねたら、
「気にはしていないがある」と答えた。
検査の結果、1日に4グラムもたんぱくが尿に漏れ出ており、血中コレステロールは血液1デシリツトル当たり382ミリグラムと高い値を示した。
血中たんぱくの主成分であるアルブミンが健常者の半分程度しかなく、ネフローゼ症候群と診断された。
ネフローゼ症候群は、種々の腎臓の糸球体病変で起こる。その組織病変により、ごく軽症なものから、腎機能障害を生じ最終的には腎不全に至るものまでさまざまである。
Jさんの場合、腎臓の組織を特殊な針で採取し病理検査すると、巣状糸球体硬化症であった。
この病気は急性にも慢性にも発症するが、ネフローゼ症候群によく効くステロイド剤が役に立たないケースがしばしばある。経過は5年から20年で再発を繰り返し、
3〜4割の人が腎機能障害から腎不全に陥る。
一方、高コレステロール血症(高脂血症)はネフローゼ症候群患者に必ず見られる合併症だ。最近、この高コレステロール血症が糸球体のメサンギウム細胞の障害と
増殖を引き起こし、腎障害を助長することがわかってきた。さらに、コレステロールを是正すれば腎障害が防御できるという実験結果があり、
実際に患者にコレステロール合成阻害剤を投与して腎機能障害を軽減したとの報告もある。
また、悪玉コレステロールである低比重リポたんぱく(LDL)を直接取り除くLDLアフェレーシスという治療法により、
血液中の悪玉を50パーセント減少させるとたんぱく尿も激減する。長期治療に努めれば完全に回復することも知られている。
近年、高脂血症の治療は動脈硬化を防ぐ観点だけでなく、Jさんのような腎障害の抑制にも役立つ点で注目されている。
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