Tさんは白動車販売会杜に勤める26歳のサラリーマン3年生。身長166センチ、体重57キロとスマートなほう
で、営業所きっての張り切り杜員として飛び回っていた。
そんな彼に、1ヵ月でなんと15キロも体重が増える異常事態が生じた。突然、猛然と食欲がわき、食べても食べても尽きない。
気にせずにいたが、ある日、荷物を持ち上げようとした瞬間、腰痛が起きた。それまで1度もなかった頭痛も生じた。
事件はまだ続く。その6ヵ月後に不注意からドアに体をぶつけ、胸に痛みが走った。念のために医者にかかったところ、
肋骨骨折と診断された。「まだ若いのに」と医者もけげん顔。内科で診てもらったほうがいいと注意された。
内科では糖尿病と高血圧があるといわれびっくり。ジーッと顔を見つめられ、次の診察には学生時代の写真を持ってくるように
と奇妙な注文をつけられたうえ、結局は入院を余儀なくされた。検査の結果、第三腰椎の圧迫骨折と右第七肋骨骨折を伴う
「クッシング症候群」と診断されたのだ。
副腎皮質に腫瘍ができ、コルチゾールというステロイドホルモンが過剰になるのがクッシング症候群である。
本来、ストレス時になくてはならない重要なこのホルモンも、必要以上に血中に増えてくると血糖や血圧が上昇、
脂肪合成が盛んとなり、糖尿病や高血圧、肥満、感染症にかかりやすい傾向などが顕著になる。満月様顔貌、バファロー上肩と
いわれる独特の体幹性肥満が起きる。主治医がしげしげ顔を見て、学生時代の写真を求めたのはこのためだ。
Iさんの場合は骨折が特徴的だった。この病気では骨からどんどんカルシウムが抜けるため、骨折が若くして起こったのである。
Iさんは外科で副腎皮質腫瘍を摘出し、その後は骨も丈夫になり、最高78キロあった体重は68キロに落ち着いた。ただ、
よく食べる習慣がついたせいかそれ以上は体重が戻らない。「病気をして太ったのは僕くらいのもの」と自慢して、
心配させた周囲の人からひんしゅくを買うほど元気になっている。
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