Sさんは34歳の女性。母親の骨粗しょう症を心配して相談に来られた。62歳の母親は以前にも骨折しており、
身長も低くなったようだという。
通常、医師が患者に身長を尋ねると、患者は若いときの身長を答えることが多い。身長を測る機会があまり多くないからであろう。
だが、たまに測っても、それが記憶している身長より低い場合には無視して昔の「より高い身長」を答えるらしい。
診察室で身長を尋ねてから測定すると、2センチくらいの差があることがよくある。だが、患者さんは不信感をあらわにし
「背が低くなった」とすぐには納得していただけない。そこで身長の自動計測装置を使用するようになった。
患者は器械に不平をいうこともできず、渋々納得する場面が往々にしてある。
閉経後の婦人を対象に行った3年間の調査では、身長は年間3ミリ程度減少するという。脊椎骨骨折があった人の場合は、
平均で年間9ミリ、3年で2.7センチも身長が縮んだ。だから若いときにくらべて2〜3センチ身長が低くなるのは「なんでもないんですよ」
と慰めにもならないことをいってしまう。「骨折も痛みもなかったんですが」といわれても、答えは同じである。
脊椎骨の微細骨折と前彎姿勢が身長を縮めているのである。
Sさんは母親の身長が低くなり、骨粗しょう症によって再び骨折するのではないかと心配しているのである。
骨粗しょう症の人が初めて骨折する率は約0.6パーセントだが、骨折したことがある人が再び骨折する率は初めての人より5〜6倍
高くなるという。このため、骨折の経験がある人は半年に一度は医師に相談したほうがよいだろう。
「骨折の予測はできないのですか」とSさん。骨粗しょう症の人は足の付け根にある大腿骨頸部の骨折危険度が、
正常の人より2.7倍高い。尿中に排泄される骨コラーゲン中の物質や血液に流出した骨の酵素などの骨代謝マーカーが高いと危険度は
4.1倍も高くなるという。骨代謝マーカーの測定は、1999年12月から骨粗しょう症の診療に限り保険適応されるようになり、
一般にも測定してもらえるようになった。
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