考えられる原因 ◆ 副腎や睾丸の腫瘍/ホルモン障害 |
本章の冒頭に、うら若い女性が2〜3年間にわたりしだいに声が野太くなり、ひげが生えてくる男性化腫瘍
の話を書いた。これとは逆に、男性が女性のような豊かな乳房をもつこともある。
24歳の生命保険会社に勤めるスリムな男性が、紹介状をもって来院された。思春期のころ乳房が大きいことに気づいたが、
関取でも大きいのだからと、とくにだれにも相談しなかったという。最近、近くの医院に感冒でかかった折に相談し、当方に紹介された。
思春期、たとえば11歳では3割の少年に乳房の腫大が見られ、通常は1年くらいで消退する。ホルモンの不均衡による生理的な現象
と理解されている。20代でも32パーセントの男性に2センチ以上の乳房腫大を見るが、その大半は5センチ以下である。単に腫大するだけ
でなく、緊満感やさらに増大する傾向がある場合は医学所見の対象となる。
古代エジプト王朝のツタンカーメン王の黄金のマスクは有名であるが、王の胸は明らかに女性の乳房である。
このようなことを研究している人がいるらしく、兄のスメンカール王や祖父のアメノフィス三世の像にも同様の所見があるという。
当時の様式か宗教的な意味か、あるいは家族性発症であったかと興味深い。
乳房の腫大は女性ホルモンや成長ホルモンなどによる刺激が原因だが、男性ホルモンにより抑制されるので、
この両者のバランスが崩れた場合に女性化乳房が生じる。肥満の男性で乳房の大きいことがよくあるが、多くは単に皮下脂肪が
とくに多いだけである。しかし、脂肪組織は女性ホルモンの活性化を担うので、ときに女性ホルモン優位となって、
乳腺組織が発達することもある。肥満と乳房の大きさが関係深いのはこのためだ。
健常男性も少量の女性ホルモンが分泌されており、肝臓や腎臓が悪くなり、ホルモン分解が減る場合や副腎や睾丸の腫瘍が
女性ホルモンを分泌する場合、さらには男性ホルモン産生障害などの病気で発症することがある。
かの男性も検査の必要性がわかったらしく「検査してみます」と勇気を奮って答えた。
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女性化乳房とは直接関係ないが、乳房の病気といえば乳がんがある。
患者数は少ないが男性でもかかることがある。乳房のしこりに気づいたら、原因を確かめておいたほうがよい。
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