47歳のKさんは運送会社に勤める男性。中年太りもなく健康には恵まれていたのだが、
職場の定期健診で尿糖を指摘された。かかりつけの医院で血液検査を受けた結果、糖尿病と診断された。
もともと多食ではなかったので、教わったとおりの食事療法を続けたところ2ヵ月で体重が2キロ減った。しかし、
空腹時血糖は改善しない。精密検査をしたほうがよいと、われわれの病院に紹介されてきた。
来院時のKさんは身長154センチ、体重47キロとやややせ形で、血圧は正常、皮膚に湿疹があるほかは特別な所見はなかったが、
やせているのに糖尿病を突然に発症したことに疑いがもたれた。腹部の超音波検査やコンピューター断層写真、核磁気共鳴画像、
膵管造影などの画像診断により、膵頭部に腫瘍が見つかった。Kさんはただちに外科で膵頭十二指腸切除術を受けた。
一般に「膵臓がんになると糖尿病を併発する」と考えられているが、膵臓がん患者のなかで糖尿病を患っている人は10〜20
パーセントと意外に少ない。
糖尿病と膵臓がんの関係にはもっと不思議なことがある。糖尿病はインスリンを分泌する膵臓のべータ細胞が障害を受けて
発症するが、この細胞は膵臓の尾部に多い。ところが、尾部から離れた膵頭部にがんができても糖尿病を発症することがある。
単にがん細胞がベータ細胞を壊して糖尿病を引き起こすのではなさそうなのである。
膵臓がん患者のうち糖尿病を併発した人を調べると、がんが見つかる以前の3ヵ月以内に糖尿病を発症していた例が50パーセントも
ある。逆にいえば、やせ形なのに急に糖尿病になった場合は要注意だ。
ただ、そうして見つかったがんは初期のことも多い。Kさんの場合は手術がうまくいき、インスリン注射にも慣れて元気に職場に
戻ることができた。
|