Oさんは56歳の女性。7年前、生理痛のため近くの病院を受診した折に、糖尿病とわかり即日入院した。飲み薬では治療が難しく、インスリンを注射し、
通院することになった。ところが深夜に低血糖による発作が頻繁に起きた。そこでインスリン量を減らしたが、今度は著しい高血糖になったため、不安定型糖尿病として調べること
になった。
不安定型糖尿病は、インスリン治療が行われるようになって間もない1930年代に初めて報告された。血糖値が高くなったり低くなったり激しく変動するため、
日常生活に支障をきたす場合を不安定型と呼ぶようになった。原因はよくわかっていないが、精神的なものと身体的なものがある。
インスリンの重要な働きは血糖を筋肉や肝臓に取り込み、肝臓から糖の放出を抑えることである。インスリンの分泌が適切でなければ血糖値は不安定になる。
インスリン治療の場合も需要と供給のバランスが崩れれば同様のことが起きる。
摂取した食物の消化や吸収が糖尿病による自律神経障害で遅れたり、運動療法の時間や程度の違いによっても血糖値は不安定になる。
Oさんの場合は食事の量が不規則であった。食事量をコントロールし、インスリン注射を毎食前の3回と睡眠前に行うようにするとうまく管理ができるようになった。
インスリン量は以前の半分になり、低血糖も全くなくなり、快適な日常生活を送れるようになった。
本人はしきりに不思議がっていたが、管理がうまくいかなかったときにくらべて、インスリンの需要が激減することはよくあることである。インスリン治療に当たっては患者に
よって異なるインスリンの使用量や注射回数を最適化することが重要である。
インスリン量は減ったが「毎日、4回も注射するのは大変なんですよ」とはOさんの言い分。もっともな意見である。糖尿病の飲み薬もずいぶんと発達してきている。
実験的には経口のインスリン製剤が試されており、Oさんに喜んでもらえる日がやがて来るのではないかと期待している。
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