Tさんは66歳。自営業で元気に毎日を過ごしているが、30年来の持病がある。
32年前、独立することを夢見ながら夢中で働いていた会社勤めの時代に、たまたま会杜の健診で尿糖を指摘され、近所の病院を受診した。肥満と暴飲暴食を注意されたが、
それ以上の指示はなく、その後も時折、口が渇く程度で目立った症状はなかった。
会杜をやめて独立した仕事が軌道に乗った59歳のとき。右足の2番目の指の深爪が化膿し、なかなか治らないため通院するようになった。このとき血糖が高いため食事療法と
服薬を勧められた。
やがて、けがをしたわけでもないのに左足背が赤くなり腫れてきた。痛みがないので放置したが、3日目には3センチ大の皮膚潰瘍になったため皮膚科を受診した。
消毒し軟膏を塗ったが治らず、内科へ紹介された後、糖尿病で入院した。
安静と禁煙、外科処置、点滴と食事療法など、Tさんには大げさすぎると感じられた入院生活だったが、後日、主治医に「じつはもう少し来院が遅れていたら、
ひざ関節での下肢切断を真剣に考えていた」と聞かされてびっくりした。
糖尿病に伴う足の病気は厄介な合併症だが、日本では最近になりやっと問題視されるようになってきた。
入院した糖尿病患者の10パーセントの足に病変があるといわれる。末梢神経障害のため患者にはほとんど痛みがない。また動脈硬化が進み血行障害もあって治りにくく、
入院期間を長引かせる第1の原因でもある。
欧米では、足の病変を専門に扱う看護師や理学療法士がいて、糖尿病患者の爪やたこの手入れをし、糖尿病が足にどんな障害を与え、いかに守るかを教育する。
靴の専門士(ペドルシスト)もいるくらい重視されている。
日本でも動脈硬化が欧米並みになりつつある。足元を見直すことは、ほかのことだけではなく糖尿病治療にも必要だ。
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