Mさんは運輸会社に勤める37歳の男性。風邪もひいたことがない元気な中堅サラリーマンである。
1年前に、顔面の筋肉がピクピク引きつるような感じを何度か経験したため、近くの医院を受診し、血液検査でカルシウム濃度が少し低いといわれた。
その後もしばしば同様の顔面のピクピク感を繰り返したが、それ以外は元気だったため放置しておいた。
ところがこのほど、新たな事業のため業者と面談中に突然に意識障害を伴う全身の硬直性けいれんが起こり、職場でひと騒ぎとなった。ただちに救急車で搬送され、
脳のコンピュータ断層撮影や脳波などの検査が行われたが異常は見つからなかった。血液検査で低カルシウム血症が指摘され、その場は注射でカルシウムを補充し回復した。
その後、低カルシウム血症の詳しい検査のため入院となった。血中のカルシウムは健常者では1デシリットル当たり8.5〜10ミリグラムだが、Mさんは4.6ミリグラム。
副甲状腺ホルモンも測定限界値以下。内分泌学的検査から特発性副甲状張機能低下症と診断された。
副甲状腺ホルモンは骨を壊してカルシウムを引き出し、尿へのカルシウム排泄を少なくして血液のカルシウム濃度を上げる。このホルモンの分泌不全により低カルシウム血症が
発症したのである。
この病気はまれなものだが、小児期に発症する早発型と中年以降の遅発型があり、後天的に発症する原因として自已免疫障害が指摘されている。自覚症状として手足の
しびれ感が多く、不安感、イライラ感、抑うつ感、頭痛などわかりにくい症状が多い。けいれんは全身の硬直性けいれんが主で、ときにてんかん発作に類似することがある。
Mさんは活性型ビタミンD剤の内服治療により発作やピクピク感などの自覚症状が消失し、元気に退院した。
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