Fさんは食品会社に勤める52歳の女性。健診で血液中のコレステロールが1デシリツトル当たり258ミリグラムと高値を指摘されて来院された。
「3年前の健診では210でした。不摂生をしたつもりはないのに、どうして今回は高くなったのですか」と首をかしげる。これは単なる測定誤差ではなかった。
中高年の女性では何もしなくてもコレステロールが高くなることがある。Fさんは最近生理がなくなった。いわゆる閉経を迎えたのだが、この閉経がくせ者だ。
女性ホルモンが途絶することで閉経となるが、女性ホルモンはコレステロールを下げる作用をもっており、閉経後にはコレステロールが急上昇する。ある調査では47歳から55歳に
かけて平均でも15ミリグラムも高くなる。
若い間は女性のほうが男性よりコレステロールが低く、心筋梗塞など動脈硬化性疾患の頻度も低いが、ちょうど50歳で男性と女性のコレステロールが同じとなり、
それ以後はむしろ女性のほうが高くなる。これに呼応して60歳以後の心筋梗塞なども多くなり、男性並みとなる。うがって考えると、出産・授乳という一大事業をやってのける
母体を支えた女性ホルモンが役割を終えたことで、女性と男性の性差がなくなるのかもしれない。
「それならコレステロールを薬で下げる必要があるのですか」とFさんはいう。
1997年に改定された薬物治療の基準では、動脈硬化性疾患の危険因子、たとえば高血圧、肥満、糖尿病、喫煙習慣、運動不足、45歳以上の男性、閉経後の女性などの条件が
一つもなければ1デシリットル当たり240ミリグラム以上、あれば同220ミリグラム以上になると、食事療法はもちろんだが薬で治療することを推奨される。
閉経したFさんの場合は薬物療法の適応となり、コレステロール合成阻害剤で20パーセント程度は容易に低下させることができるが、女性ホルモン補充療法によっても改善する。
最近、欧米では女性ホルモン作用をもつ新たな薬剤が動脈硬化の薬になるのではないか、と注目を集めている。
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