Oさんは32歳の会杜員だが、骨粗しょう症が心配と相談に来られた。こんな若い女性が訪ねてくるのは珍しいが、じつは理由がある。
Oさんは22歳のときにバセドウ病にかかり、治療を受けていた。内服薬だけでバセドウ病は完治したが、最近、雑誌でバセドウ病になった人は骨粗しょう症になりやすいという
記事を読み、びっくりしたというわけである。
バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気で、しばしば骨量が著しく減少する。実際、わが国の調査でも、バセドウ病にかかった人の腰椎の骨量を同性同年齢の
健常者とくらべると、約10パーセントも低下していたことがわかった。これは甲状腺ホルモンを過剰投与した動物実験でも立証されている。
バセドウ病の人は活動的な人が多いので、一見、骨粗しょう症とは関係なさそうに見える。ところが、甲状腺ホルモンは骨をつくる細胞に作用して、骨を破壊する細胞の働きを
強くする。これにより、骨が壊れて血液中にカルシウムが流れ出し、尿へのカルシウム排泄量が増加するとともに、小腸でのカルシウム吸収量が減少する。
内服薬で治療すると甲状腺機能は数ヵ月で正常になるが、骨の代謝が正常に戻るには、約1年かかる。骨量はバセドウ病が完治すれば回復するが、閉経後の婦人では十分回復
しないことが多い。
米国で65歳以上の女性を対象にした調査では、バセドウ病にかかった人が大腿骨頸部を骨折する危険度は、かかったことがない人にくらべて2.4倍も高いことが知られている。
この意味では、骨粗しょう症になる危険があるといわれてもしかたがない。より早く診断を受け、治療することが骨を傷めないことにつながる。
慢性甲状腺炎の甲状腺ホルモン療法の内服治療による骨粗しょう症の危険性は、甲状腺ホルモンの内服量が過剰にならない限り骨には影響がない。
Oさんの場合は、念のために骨量を確認したこともあって「これで骨粗しょう症になる心配がなくなりました」と笑顔を残して診察室を後にされた。
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