Mさんは28歳の会杜員。もともと体格はがっしりしていたが、大学生のころから肥満気味であった。引っ越しの手伝いをしているときに腰痛が起き、
翌日にはさらに痛みが強まった。近くの病院で高血圧と糖尿、腰椎の圧迫骨折を指摘された後、来院された。
顔が丸く、「満月様顔貌」と呼ばれる兆候があり、首の後ろから肩にかけて皮下脂肪が厚くなっている。血圧が高く、軽度の糖尿病が認められた。
検査の結果、副腎に腫瘍が見つかり、クッシング症候群であると判明した。腫瘍から副腎皮質ホルモンであるステロイドホルモンが過剰に分泌され、
肥満や糖尿病、高血圧を引き起こすことで有名だ。
Mさんの腰椎骨折もこのホルモンの過剰が原因で骨粗しょう症になり、起きたのである。Mさんのように若い男性に骨粗しょう症が起こるのは奇妙に思われるかもしれないが、
この病気にかかった約70パーセントの人が骨粗しょう症になっているという報告がある。
ステロイドホルモンは強力な抗炎症作用と抗免疫作用をもっているので、膠原病やリウマチなど多くの疾患に特効薬的に使われている。効果が劇的なだけに、
副作用にも十分な注意が必要な薬である。
最近、その副作用として骨粗しょう症が話題になっている。米国の骨粗しょう症患者の20パーセントがこの薬の服用者であり、長期服用者の25パーセントが骨折の経験がある。
リウマチ患者でこの薬を服用している人は、服用していない人にくらべて2.7倍も骨折が多いという。
ステロイドホルモンは腸管でのカルシウムの吸収を抑え、尿への排泄を増加させる。さらに骨の細胞に働いて骨の破壊を促進させ、
骨をつくる細胞の数を減らすなどの弊害がある。
だが近年、活性型ビタミンD剤やビスフォスフォネート剤といった新しい薬剤で、ステロイドホルモンによる骨粗しょう症を予防したり治療したりできるようになってきた。
またMさんのようなクッシング症候群の患者の骨折を防ぐ薬剤としても期待されている。
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