Dさんは54歳の女性。健診のとき、骨の量(骨塩量)を測定し「あなたの骨は70歳」といわれた。驚いて近くの病院に行って検査を受けたところ、
今度は同年齢の女性にくらべてやや低い程度といわれた。検査結果の違いに戸惑ったDさんは「私の骨はこれでよいのでしょうか」と来院された。
健診では超音波でかかとの骨を調べ、病院では手首の骨を放射線装置で調べていた。かかとの骨は体重がかかる荷重骨で代謝が早いのに対して、
手首の骨は体重がかからない骨で、代謝が遅い。骨塩量は骨の石灰化した部分のミネラル成分のみを測定しているので、塩量で表す。骨粗しょう症の診断で、
最も標準的に測定されるのは椎骨である。骨塩量が若年女性の70パーセント未満になると骨粗しょう症と診断され、70〜80パーセントであれば、骨減少症と診断される。
通常、骨粗しょう症の人には薬物療法を始めるが、骨減少症の場合は食事や運動などの生活習慣の改善を心がけるように指導するだけで、薬は使わない。
しかし、55歳以前に骨減少症を指摘された場合やステロイド剤を服用しているなど急速に骨量を失うおそれがある人については薬物療法が必要になる。
Dさんの場合、腰椎の骨塩量は若年女性の七八パーセントで、軽い骨減少症と見られる。しかも、生理が止まって二年ほどにしかならず、骨粗しょう症の危険が予測される。
「でも手首の骨は同年代の平均なのでしょう」とDさんは治療には懐疑的である。
骨粗しょう症の主な原因のひとつは閉経によって女性ホルモンが失われることが挙げられるが、じつは手首の骨は骨の減少がほかの部位にくらべて遅く、
閉経よりはむしろ加齢による影響が強い。このため、腰椎やかかとの骨などの骨塩量が低下していても、手首の骨の骨塩量だけは、温存されている。
人体には全部で206本の骨があり、これらは同じ程度に悪くなっていくわけではない。いくつかの部位で骨塩量を測り、どこか一つの骨でこの値が非常に低い場合には、
やはり問題があると考えたほうがよいようだ。
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