Yさんは血液中のコレステロールが1デシリットル当たり280ミリグラムもあり、薬をもらっている人であるが、
常々食事の注意点がよくわからないとこぼす。
同240ミリグラム以上の高コレステロール血症の場合、動脈硬化と強く関運し、心筋梗塞など虚血性心疾患の頻度を増加させることはよく知られている。
わが国ではコレステロールの摂取は欧米人にくらべて少なく、1日に300〜500ミリグラムである。軽度のコレステロール制限食が300ミリグラムであることを思えば比較的健全な数値といえる。
コレステロール豊富な食品として鶏卵がある。1個で約250ミリグラムも含むが、卵白にはなく卵黄に存在するので調理法によって軽減できる。
肉類は100グラムで60〜100ミリグラムを含むが、網焼きやしゃぶしゃぶなどの脂を落とす調理で半減できる。魚は100グラムで50〜80ミリグラムで、
イカやタコも従来いわれているほど含有量は多くなく、通常の食生活では問題ない。
ではコレステロール摂取量さえ気をつければいいのか。それには一九七〇年代の有名な話がある。デンマーク人と魚を常食にするイヌイットとの疫学比較である。
コレステロール摂取量はデンマーク人の500ミリグラムに対しイヌイットは700ミリグラムと多い。にもかかわらず、イヌイットの虚血性心疾患の頻度はデンマーク人の7分の1に
過ぎないことがわかり世界の注目を集めた。
この秘密はイヌイットがデンマーク人の4倍多く食べている魚、とりわけ魚に含まれるエイコサペンタエン酸などのオメガ−3系脂肪酸にあると考えられている。
魚介類以外でもシソ油、菜種油、サラダ油、大豆油にはオメガ−3系脂肪酸のα-リノレン酸が多いとされる。牛や豚の脂には少ないので偏った肉食は注意がいる。
Yさんに当てはめると、やはり肉食が多く、魚料理が少なく、豆腐や納豆などの大豆食品も昔ほどは食べていない。「よく考えると、煮物、炊き物、焼き魚、
豆腐や納豆などのおふくろの味がコレステロール過多にはいいってことですね」と懐かしそうにつぶやいた。
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