コレステロールは水に溶けないので、血液中では親水性の高いたんぱくに包まれてリポたんぱくと呼ばれる粒子として存在している。
そのコレステロールが多いことで腎臓を悪くする、リポたんぱく糸球体症という病気が近年知られるようになった。
Iさんは家電販売会社を営む59歳の社長さんである。若いときから病気知らずだったが、10年前にめまいと顔面紅潮が出るようになり、高血圧の治療のため近くの医院で
投薬を受けるようになった。その間、一度も腎機能障害を指摘されたことはなかった。
ところがある年の10月に尿たんぱくが初めて見つかった。さらに12月ごろからめまい、ふらつきを覚えるようになったため、精密検査のため入院した。
検査で尿たんぱくが1日4.2グラムと大量に出た。血中クレアチニンの数値も1デシリットル当たり2.7ミリグラムと腎機能障害の傾向を示していた。一方で、
血中のコレステロール値が1デシリットル当たり444ミリグラムと高かった。
腎臓の一部を採取する腎生検により、組織学的な病変の有無を調べたところ、通常の腎炎像以外に糸球体毛細管管腔に脂肪滴状の物質が認められた。
電子顕微鏡写真でも毛細管の管腔に小胞形成とコレステロール結晶が見られ、リポたんぱく糸球体症が疑われた。
この聞きなれない病気は1980年に初めて報告され、リポたんぱくの一部の構造異常が腎臓障害を起こしうるとして注目された。腎臓の細胞にリポたんぱくが沈着し
腎臓の働きを悪くする。
腎機能の悪化はコレステロール値を下げることで防げる。Iさんの場合も入院後、安静にし食事療法、血圧の管理とともにコレステロールを下げる薬を服用することで
腎障害の悪化が防止できた。たんぱく尿もわずかとなって退院された。
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