診察室でのこと。Mさんは身長168センチ、体重72キロのやや肥満タイプの初老の紳士である。「肥満はこのくらいでも悪いのですか」
とMさんは質問した。少々太りぎみとはいえ今までこれといった病気にもならず元気にやってこられたので、肥満が悪いといわれたことに疑問を感じたという。
肥満とは体の脂肪が過剰に増加したことをいい、筋肉などで体重が増える場合とは区別する。また、肥満症とは肥満に起因した合併症や精神障害があり、
減量による予防や治療が必要となる病的な状態をいう。肥満は、国際的には体格指数(BMI)で表現する。この指数は体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った値で、
わが国では25以上を肥満とする。Mさんの場合、体格指数は25.5と肥満の域に達している。
じつはMさんが来院する契機となったのは、検診で肝機能に異常が見つかり、肥満が原因といわれたためだ。米国の28年問に及ぶ研究では、
肥満者はそうでない人に比べて心筋梗塞、狭心症、脳血管障害が1.4〜1.9倍多い。別の研究でも比較的若年者では高血圧が5.6倍、糖尿病が3.8倍、高脂血症が2.1倍である。
しかし、肥満であればすべて悪いかどうかは別の問題だ。体脂肪の蓄積分布により代謝病にかかる割合に差があるからだ。
ヒップに対するウエストの比で0.85以上の上半身肥満では下半身肥満より糖尿病や高血圧が多い。
コンピューター断層写真からの内臓と皮下の脂肪比率で診断する大阪大学の松沢佑次教授らによると、内臓脂肪型肥満は皮下脂肪型にくらべて高血圧、糖尿病、高脂血症が多い。
このような生活習慣病(成人病)の合併の肥満はいわゆる中年太りのおなかに出るタイプで、医学的にはインスリンの感受性が低いのが特徴である。
Mさんもこの合併症の多いタイプで、肝機能以外にコレステロールと尿酸値が高いことがわかり、「なるほどね」と納得顔になった。
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