Yさんは63歳の商社役員。風邪をひいたようなのどの痛みと咳があり、近くの病院を受診した。尿検査でたんぱく尿と血尿を指摘されたものの症状は軽く、
内服薬で風邪は改善した。腎機能を調べる血中クレアチニンの検査結果も1デシリツトル当たり1.2ミリグラムと正常域内だった。
ところが翌月になって、今までに経験がないような疲労感が急に襲った。食が進まず、ときに悪心も感じる。再び同医院を受診して検査したところ、
肝機能や血糖などは正常だが、クレアチニンが2.2ミリグラムと増悪し、やはりたんぱく尿と血尿が認められた。体重の増減はなく、むくみもないが、
このころから尿量が少なくなったようであった。
主治医の診断は急性腎炎。すぐに入院したが、倦怠感はさらにひどくなるばかり。発熱を伴い、貧血のためか顔面は蒼白でやや暗褐色調を帯び、死相を思わせる状態となった。
主治医の指示でYさんはわれわれの病院へ転送され、腎臓の生検を行った後、ただちに腎不全治療のための透析を開始した。
生検の結果、腎臓の糸球体が著しく破壊され、強い炎症を起こしていることがわかり「急速進行性糸球体腎炎」と診断された。
この病気は比較的まれだが、女性より男性に多く、年齢では30歳から60歳に多い。1〜2ヵ月で腎不全状態に陥る致死率の高い病気で、出血性肺炎などを併発する。
原因が不明の自已免疫疾患である。
Yさんは重い腎不全状態だったが、透析と血漿交換療法を併用して抗体や免疫複合体を取り除き、ステロイドホルモンで免疫を抑える治療によって、病状は劇的に改善した。
透析は続けなければならないが、退院して新年は白宅で迎え、「今年も意欲をもって仕事ができそうです」と語ってくれた。
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