「足の親指が痛くて」と来院したOさんは32歳、中堅の鉄道マンだ。週末に右足の親指の関節の腫れと痛みが突然に出現。
それでも息子との堅い約束を破れず、日曜日は遊園地で1日中過ごすという涙ぐましい父親業を果たしたという。週明けには歩くのがままならないほど痛みがひどくなった。
「まさかお酒を飲まなかったでしょうね」との問いに、Oさんは「飲んだらよけい痛くなりました」と恐縮しながら語った。
これは典型的な痛風の急性関節炎発作である。この病気は長年の高尿酸血症によって関節内にたまった尿酸が炎症を引き起こすために発症する。長時間の歩行、過食、
飲酒などが誘因となり、数日から数週間にわたり発作が持続する。Oさんはやってはいけないことを気力と努力でこなしたことになる。
痛風は紀元前5000年のエジプトのパピルスに轟され、ミイラの足の親指に痛風結節が証明されるほど古代から人類の病気であった。ヘンリー7世やルイ14世などの多くの
皇帝や貴族が犠牲となったので帝王病と呼ばれ、ニュートンやダーウィンといった大科学者も患っていた。
尿酸の原料となるのは動物や魚の筋肉に含まれる核酸なので、予防としては偏った肉食を避け、野菜類や穀物類、乳製品を増やす。さらには尿酸の排泄促進や合成抑制剤に
より血液中の尿酸を下げる治療をする。
患者には美食家でアルコール多飲者が多いが、ある学者の説によると、行動的で努力家、好戦的で指導性があり、成功への期待度が高い性格の人がなりやすいという。
とはいっても病気の進展は、成功の可能性を明らかに低くする。
女性より男性に10倍多く、欧米では成人男性の1.5〜2.5パーセント、わが国では1.5パーセント程度の有病率である。従来この病気は50代が最多だったが、最近では30代が
好発年齢となってきた。若者の飲酒、食習慣などが様変わりし、この病気の若年化を引き起こしていると話題になっている。
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