Uさんは67歳の男性で、歩行困難のため診察を受けに来られた。少し歩くとふくらはぎが突っ張るが、立ち止まるとすぐ治るという症状が56歳ごろ
から出始めた。その後、腰痛が出て椎間板ヘルニアの手術を受けた。だが歩行困難はひどくなり、100メートル歩いても苦痛を感じるようになったという。
診察時に脚の動脈の脈拍は微弱で、腕の血圧に対する脚の血圧の比が0.7であった。通常は脚の血圧のほうが腕の血圧より2割くらい高いので、この比が0.8〜0.9以下だと
脚の血行障害があると判断する。脚の動脈のレントゲン検査では、大腿動脈が半分以下に狭まり、動脈壁がただれていることがわかり、Uさんは閉塞性動脈硬化症と診断された。
この病気は動脈の血管の内側が脂質の沈着や繊維性結合組織の増殖で硬く狭くなり、血行障害を生じる。血管壁には潰瘍ができたり石灰が沈着したりする。1970年代から
増加し始め、高齢化に伴い病変は重症になってきた。患者の大半は70歳以上で圧倒的に男性に多く、女性は1割程度である。当初は脚の冷たさやしびれを感じる程度だが、
進展すると200〜300メートル歩いただけで、ふくらはぎの痛みをみるようになる。さらに重くなると安静時でも脚が痛み、もっとひどくなると足に潰瘍などができる。
血管にチューブを入れて風船で内側を膨らませる経皮的血管拡張術や外科的バイパス術により治療できることが多い。最近では新しい抗血小板薬や抗トロンビン薬などが
開発され、予防や治療に威力を発揮している。さらに血管を新しくつくる遺伝子治療も考案されており、この分野の治療法は急速に進んでいる。
欧米ではこのような症状をもった患者は5年で30パーセント、10年で50パーセントが死亡するという報告がある。糖尿病がなければ15パーセントの人は症状がよくなるが、
5パーセントは脚を切断しなければならないという。
抗血小板薬で改善したUさんは「これからずっと歩くたびに脚が痛くなるのかと思い、本当におそろしかった」と、この病気の怖さを語っていた。
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