腰痛に悩む51歳のサラリーマンのYさんが内科の私の診察室にやって来た。Yさんは特別に重い物を運んだり、1日中立っていたりする仕事でないのに、
すでに2度も椎骨の圧迫骨折を経験している。「男性でも骨粗しょう症になるのですか」と真剣な表情で質問するのは整形外科で骨粗しょう症が原因で骨折したと説明されたためだ。
確かに壮年期の男性患者は珍しい。
骨粗しょう症には若年性骨粗しょう症といって20代や30代で発症し骨折を繰り返すものがある。Yさんはこのような特殊なタイプではなく、肝臓病の治療のために服用していた
副腎皮質ホルモンによる骨粗しょう症とわかった。具体的にはグルココルチコイドで、ステロイドホルモンとも呼ばれる。
このステロイドホルモンは種々の免疫疾患で広く使われている薬だが、骨にとっては厄介な存在だ。骨の原料となるカルシウムの腸管での吸収を減らし、腎臓からカルシウムを
どんどん排泄させる。
さらに悪いことに骨をつくる骨芽細胞の分化を抑制し、骨芽細胞の機能を止め、逆に骨を壊す破骨細胞の活動を活発化させる。また、このホルモンが多いと女性ホルモンや
男性ホルモンの分泌が抑えられ、とくに男性では骨に影響する要因となる。
英国で提唱されているガイドラインでは、3ヵ月以上にわたりグルココルチコイドを1日7.5ミリグラム以上服用している場合は骨量を測定し、骨減少が著しいときには薬物治療を
実施するとしている。
近年、新たな骨粗しょう症薬が開発されてきた。活性型ビタミンD剤やビスフォスフォネート剤で、このグルココルチコイドが原因の骨粗しょう症の防止に力を発揮すると期待
されている。
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