大阪のタクシーの運転手さんは話し好きと以前にも書いたが、行き先を告げた後に「お客さんはどちらから来られました?」
「このごろはお忙しいですか」などと質問形式で会話が始まる。私の場合は行き先が大学病院や医療機関なので、「お客さんはお医者さんですか」と聞かれ、
揚げ句の果ては個人医療相談になってしまうことがある。
「家内が腰を痛めましてね」といわれると、つい「おいくつですか」と商売気を出して年齢を尋ねる。こうなると会話は弾むというか中断できない雰囲気になる。
奥さんは56歳で、41歳のときに手術で卵巣を摘出している。主治医から骨がもろくなって背骨が圧迫骨折しているので、もっとカルシウムをとりなさいと諭されたという。
「カルシウムをとれといわれてもジャコばかり食べるわけにはいきませんよね」と奥さんを擁護する。牛乳は200ミリリットルでカルシウムが200ミリグラムもある便利な食品
ですよといえば、牛乳や乳製品は嫌いだと答える。それならと、豆腐のような大豆製品や納豆などの豆類、緑黄色野菜、小魚、海藻類などもカルシウム豊富な食べ物ですからといえば、
「ああ、和食ですね」と相づちを打つ。
日本人は歴史的に乳製品や獣肉を摂取する習慣はなかったが、穀物、豆、野菜のカルシウムと魚料理による大量のビタミンDをとることで食生活の欠点を補っていたようだ。
和食の知恵ともいえるが、最近はこの知恵がなおざりにされる風潮である。
米国立衛生研究所は1994年、カルシウムの適切な摂取量は成人で1日1000ミリグラム、閉経後ないし65歳以後は1500ミリグラムを目標にすべきだと発表した。
わが国の平均摂取量が545ミリグラムと十分でなく食生活の見直しが必要だというと、かの運転手氏いわく「要するに好き嫌いせずになんでも食べよということですね」
と納得顔。最後は当方「おだいじに」と下車して診察室(?)を後にした。
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