血液中のカルシウムの濃度は、1デシリットル当たり8.5〜10ミリグラムのごく狭い範囲に収まっている。
カルシウムをたくさん食べてもあまり食べなくても、この濃度範囲を保つのが普通だ。しかし例外はあり、血液1デシリットル当たり10.5ミリグラム以上になるのが
「高カルシウム血症」である。
中堅機械会杜の課長を務めるSさんは47歳の男性。学生時代に野球で名をはせた、頑健な体の持ち主だ。そのSさんが左わき腹から背中にかけて差し込むような鋭い痛みを
感じたのは、2年前の2月だった。
その後、月に1度、同様な痛みが起き、6月からは血尿が出るようになった。あきらめて総合病院を受診したSさんは尿管結石と診断され、衝撃波による粉砕術を受けて回復した。
ところが、10月初めになって今度は胃痛が起き、腹部に膨満感が生じた。倦怠感も加わった。再び病院を訪れたSさんは、胃と大腸のレントゲン透視と内視鏡検査では異常なしと
いわれたものの、多尿、食欲不振、便秘がひどく、1年前より体重が8キロも減っていた。
Sさんの血中カルシウム濃度を調べたところ13.8ミリグラムもあり、高カルシウム血症とわかった。また、頸部に腫瘤が見つかった。
これは副甲状腺のひとつが大きくなったもので、ここから副甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、カルシウムのバランスを崩していることが判明した。
病名は「原発性副甲状腺機能亢進症」。要は副甲状腺の腫瘍で、ときにがんもあるが、大半は良性だ。Sさんは頸部の手術を受け、退院した。
食欲不振などSさんの消化器系の症状は、高カルシウム血症による。重症になると頭がボーッとしたり、意識を喪失したりすることもある。
大量のカルシウムが骨から血液へ抜け出てくるため、骨折しやすくなったり、尿中ヘカルシウムが多く排泄されるので尿路結石を多発し、腎障害をまねく。
ともあれ、Sさんは手術後3ヵ月で傷あとも消え、元気そのものだ。「骨からカルシウムが抜けたので」と牛乳をたくさん飲むようになり、
体重ももとどおりのちょっぴり肥満体に後戻りした、と奥様から連絡があった。
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