Hさんは25歳の会社員で、睡眠中のいびきのために来院された。家族の話では最近とくに、いびきがひどくなり、睡眠中に呼吸が止まることもあるという。
彼は高校時代に過食ぎみになったが、運動をしていたこともあり、体重はさほど増えなかった。しかし就職後に肥満傾向が目立つようになり、
来院時の体重は92キログラムもあった。睡眠時にいびきが起こるようになったころから、夜間に排尿に行く回数が増え、悪夢でよく目が覚めるようになったという。
いびきとは睡眠中に息を吸うときの異常な呼吸音を指す。この音は息を吸うときの空気の流れにより、軟口蓋から咽頭蓋に至る上気道が振動するために発生する。
睡眠時は上気道の狭窄が生じやすく、生理的にもよく見られる。
ただ、無呼吸が見られる場合は睡眠時無呼吸症候群と呼ばれ、問題になる。これは睡眠中に肺でガス交換が十分できないため、
二酸化炭素が血液に滞留して呼吸が一時的に停止してしまうからだ。7時間の睡眠中に10秒以上の呼吸停止が30回以上起こる。兆候としては重症のいびきや不眠、
睡眠時の不自然な体の動き、起床時の頭痛などがある。100人に1人くらいに見られ、男性のほうが女性よりはるかに多いが、閉経後には女性でも増加する。
この肥満者で無呼吸が起きる症状は、ディケンズの著書に出てくる肥満で傾眠(日中、無意識のうちに眠ってしまう)のある少年にちなんで
ピックウィキアン症候群と名づけられている。この症候群では睡眠時の無呼吸症だけでなく、日中の傾眠やチアノーゼ、赤血球増加症が見られる。
さらに筋けいれんや心不全に至ることもある。
睡眠時無呼吸症候群の第1の治療法は減量である。睡眠時の呼吸を補助するために、経鼻陽圧気道圧器や気道確保用の器具を使う。外科的な手術が実施されることもある。
Hさんは食事療法と運動により85キログラムまで減量でき、いびきと無呼吸を改善し睡眠中の悪夢からも解放された。「自分では気づかなかったけれど、
肥満がこんなに怖いとは思いませんでした」とHさんはひと安心している。
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