Mさんは会社でも酒豪で名をはせる43歳の男性。悪心、嘔吐を伴う突然の上腹部痛を覚え、病院に駆け込んだ。
腹痛はしだいに強まり数時間後にピークに達した。痛みは背中にまで広がった。腹痛はへその上部で強く、前かがみの姿勢になると軽減する。37.2度の微熱はあったが、
下痢はなかった。ただちに入院となり、絶食・安静にし、輸液などの治療が施された。検査で血液中のアミラーゼ、リパーゼなどの膵酵素の上昇が確認された。急性膵炎である。
症状は4日目から改善し、1週間目にはウソのように本人は元気になった。
急性膵炎の原因としては長年のアルコール多飲がある。ときには1〜2回の多飲によっても発症することがあるが、Mさんの場合は明らかに前者といえる。欧米、
とくに英国などでは急性膵炎の75〜90パーセントはアルコールや胆石が原因であるが、わが国ではアルコール性が38パーセント、胆石が19パーセントとやや異なる。
いったん退院したMさんだが、問題はこの後だった。Mさんの検査で血液中の中性脂肪の検査値が2021と高い値を示し、この高脂血症が膵炎と関連するのではないかと
疑われたためである。絶食時の血中中性脂肪は通常は150以下であり、600を超えると高カイロミクロン血症といわれ、食事由来の血液中脂肪の増加と考えられている。
アルコールはさらに中性脂肪を増やす最大の原因だ。
このような型の高脂血症では発疹性黄色腫、耐糖能低下、高尿酸血症などとともに急性膵炎が見られるため、膵炎の再発予防のためにもその高脂血症の治療が必要となる。
イワシ油(エイコサペンタエン酸)の効果も知られてはいるが、アルコールの厳禁、低脂肪食など食生活の大改革が第一である。
入院中より覚悟はしていたMさんだが、あるいはアルコール以外の原因が見つかるのではと期待して来院されたのだろうか。「やっぱりお酒が原因ですか」と、
心なしか落胆の色が隠せなかった。
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