62歳で20年来の糖尿病もちであるUさんをある日、腹痛が突然襲った。症状は進み、次いで下痢と下血も起こったので、
驚いたUさんはあわてて近所の診療所に駆け込んだ。そのときには吐き気と嘔吐もあったという。
腹痛は激しいもので、左下腹部に周期的に痛みがぶり返した。おなかが突っ張ったような感じとなり、熱も出ていた。ご本人の話によると、
とくに食中毒になるようなものを食べたことはなく、同じ食事をした家族にはUさんのような症状は全く見られないという。
内視鏡とレントゲン検査などから、Uさんの病気は虚血性大腸炎が疑われた。安静、絶飲絶食とされ、輸液療法などを実施することになった。
この虚血性大腸炎という病気は、細菌や薬剤などの特別な原因がないにもかかわらず、腸管で突然、循環障害が起こり腹痛などの消化器症状が起こる病気である。
この病気には腸管の動脈である腸間膜動脈が閉塞する重いタイプと、閉塞はしないで血の巡りが悪くなる虚血が起こるタイプの二つに区分できる。
前者の腸間膜動脈の閉塞タイプは腸管が壊死し、腹膜炎となり、ショック状態に至って今日でも40〜80パーセントと高い死亡率の重症な疾患である。
後者の非閉塞タイプではさらに一過性型と狭窄型、そして予後の不良な壊死型に区別される。
この一過性型と狭窄型が虚血性大腸炎といわれ、下行結腸からS状結腸にかけてのおなかの左側に起こりやすい。50歳以上の中高年に患者が多く、
とくに女性によく見られる病気である。動脈硬化の高度な人に多いとされ、高血圧や糖尿病患者は要注意である。
幸い、Uさんは一過性型だったので、治療により腹痛と下血など消化器症状は軽減し、一週間ほどで食事ができるまでに回復した。
虚血性大腸炎は老化に伴う動脈硬化疾患をべースに発症する。このため、高齢者人口の増加とともにUさんのような患者の数が増大するのではないかと危慎されている。
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