服飾関係に従事しているヘビースモーカーのYさんは、58歳の活動的な女性である。しばしば強い胸焼け症状があるとのことで来院した。
Yさんによると、胸の裏側が焼けるような感じで、強いときは熱感や灼熱感がある。前胸部下部から口のほうへ痛みが放散し、ときに胃液を吐く。食事後によく起こり、
前屈位で増強するという。
検査の結果、心・胸部に異常はなかつた。上部消化管レントゲン造影で調べたところ、胃に異常はないものの食道下部にびらん(ただれ)と浅い潰瘍があり、食道炎とわかった。
通常は食道から胃へ食物が運ばれていき、いったん胃に至った食物は食道下部での括約筋と横隔膜の筋肉・靱帯により胃から食道への逆流が起こらないようにできている。
もし、逆流が頻繁に起こると酸や消化酵素を大量に含んだ胃液が食道内へ入り、炎症や潰瘍を発症させる。
この胃液の食道への逆流は、下部食道括約筋の病的な弛緩や括約筋圧の低下、食道裂孔へルニアなどが原因だ。食道裂孔ヘルニアというのは食道から胃への入リ口の
一部が横隔膜を越えて胸郭内へ入り込む状態で、胃液が食道へ逆流することになる。Yさんの場合はこの食道裂孔ヘルニアがあり、このために食道炎を繰り返していたのだ。
治療は制酸剤や胃液分泌抑制剤、粘膜保護薬で奏功するが、日常の食事にも注意がいる。脂肪、アルコール、チョコレート、ハッカは括約筋圧を低下させ、コーヒー、
かんきつ類、香辛料は粘膜を刺激するためいずれも要注意だ。また、喫煙は食道炎を増悪させ、再発が多くなる。日常の姿勢も大切で、とくに長時間の前屈位は望ましくなく、
就寝時も上半身を少し高くするとよい。重い物を持ち上げたり、腹部を圧迫する服装など腹圧を上げることにも注意が必要だ。
ヘビースモーカーで、仕事時に前かがみ姿勢が多く、タイトな服装好みのYさんだが、「いわれてみれば、体に悪いことばかりしていたみたいですね」と反省の弁。
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