ときどきひどい頭痛がすると、53歳のM氏が高血圧で来院した。日ごろはさほど高くないが、頭痛があるときは上が210、下が124。発汗もあった。
半年で体重が4キロも減り、動悸や腹痛も起きたらしい。ところが、来院して調べると血圧は正常。検査も異常がなく、糖尿病の疑いがある程度だった。
詳しく調べると、副腎に腫瘍ができる褐色細胞腫だった。この腫瘍からカテコールアミンという血圧上昇ホルモンが分泌されてM氏の症状が起こっていた。
褐色細胞腫は、高血圧患者の0.2パーセントにもならないくらい珍しい疾患で、30代から50代に起こりやすい。大半は片方の副腎から発生しているが、
ときに腎臓周辺や腹部大動脈周辺に起きる。
医学生は「10パーセント病」と呼ぶ。両側副腎発生頻度、副腎外発生頻度、悪性腫瘍の割合、家族内発生頻度がどれもほぼ10パーセントだからである。
カテコールアミンはアドレナリンやノルアドレナリンなどの総称。腫瘍から持続的、または突発的に分泌される。とくに後者では突然の高血圧や頭痛、胸痛、発汗、
腹痛などが起こり、長期に及べばやせたり糖尿病が認められることがある。
カテコールアミンは血管を収縮させて血圧を上昇させる。脈拍を増加させ、体の代謝を高める。ちょうど興奮した状態と同じ現象をまねく。実際、興奮状態は自律神経である
交感神経からノルアドレナリンが分泌されて生じる。言い換えれば、腫瘍が体を勝手に周期的に興奮させるわけだ。
放置すると、脳血管障害や心不全、腎不全などになる。手術で腫瘍を取れば予後はきわめてよい。M氏は「持病も治療できる」ことに安堵していた。
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