東京と大阪のタクシーで大きな違いが一つある。東京の運転手さんはビジネスライクで余分な話はあまりしないが、
大阪の運転手さんはお客や自分の個人的な会話をけっこう好む。
よく経験するのは、行き先の病院名を告げると「お客さんは病院の人ですか」と話しかけられることだ。この場合、世問話というよりはほとんど個人相談といった雰囲気で
乗車中の時問が費やされる。この日は「血圧の薬を飲んでいるんですが、お酒もいけないんですか」という相談から話が始まった。以前は収縮期血圧が170、
拡張期が100くらいあったのが、150と90くらいに落ち着いているという。運転手氏の疑問は、病気でもないのに血圧が高いだけの理由で禁酒が必要か、ということである。
軽症の高血圧患者を対象とした長期の降圧療法の介入試験が欧米でなされており、5〜7年間の観察中の脳卒中、心不全、大動脈瘤による死亡率の軽減が降圧により
期待できることから、血圧の治療は主にこれらの病気の予防であることになる。
塩分をたくさんとると血圧が高くなる話はよく聞くが、お酒ではどうか。大阪の40歳から69歳の男性の調査で、もともと飲まない人は高血圧の頻度が20パーセント、
禁酒した人や2合までの人は35パーセント、3合以上の人は50パーセントと飲酒量と血圧に関係があるという。秋田と茨城での男性3000人の10年間の追跡調査では、
毎日1〜5合以上の飲酒歴をもつ人は脳卒中や循環器疾患の発症危険度が1.5倍になったという。
節酒すると血圧が下がるという報告があるので、せっかく薬で治療しているのだから、お酒もほどほどがいいのではともちかけると、「でもね、お酒が好きだからね」
と都合のよくない話には関心がない様子。それでも、最近の米国の勧告では上の血圧が140、下の血圧が90以上の人は血圧の管理などさらに厳格な高血圧対策を奨励するようになった、
などと話すとますます運転手氏の興味からそれたらしく返事がない。
大阪の運転手さんが「話し好き」というよりは、筆者が単におしゃべりなだけなのかもしれないと落ち込んでしまった
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