40歳のF子さん。19歳のときに糖尿病と診断された。これまで周囲の何人もの人に「糖尿なのにインスリン注射をしなくてもいいの」などと
聞かれたことがあったが、実際にはときどき病院通いをするくらいですみ、自分でも意外と思うくらい元気に過ごしてきた。
たまたま、たんぱく尿が見つかったため来院。その折に「ほかの若い糖尿病患者が打っているようなインスリン注射は、私は必要ないのですか」と、
これまでなかなか切り出せなかった質問をした。
F子さんの話をよく聞くと、父親、叔父、長男、二男が糖尿病で、糖尿病の家族歴が濃厚であつた。本人の糖尿病は中程度で軽度の網膜症を伴っているものの、
糖尿病歴21年の割には障害が軽い。
糖尿病は若年発症型(1型)と成人発症型(2型)に区分され、前者はインスリン依存性でインスリン治療をしないと生命危機に見舞われるタイプである。
後者はしばしば肥満を伴い、近親者に糖尿病がよく見られる。若年型はウイルスなどによる膵臓のインスリン産生細胞の破壊とそれに続く自已免疫過程によるとされ、
成人型は遺伝形質に過食や運動不足などの環境要因が加わることによるとされている。遺伝性は後者に強い。
F子さんの場合、若年で発症しているのにインスリン治療をせずに21年間も異変がなく、若年型に特有の抗体も見つからず、肥満はないもののどちらかといえば成人型になる。
このようなどっちつかずの糖尿病を「若年で見られる成人発症型」といい、専門家の間ではアルファベットの頭をとってMODYという。
このモディは常染色体性優性遺伝であり、7番目の染色体にあるグルコキナーゼという酵素の遺伝子の突然変異が原因のひとつであることがわかっている。
膵臓でのこの酵素の働きが悪いために糖尿病になる。
人種によって頻度が異なり、わが国では糖尿病患者の0.1パーセントと少なく、軽症であることが特徴だ。
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