Mさんは37歳の主婦で、自分は病気知らずの元気者と信じていたという。ところが、自転車で買い物に行った帰りに突然、呼吸が苦しくなり全身がしびれ、
胸の痛みに襲われた。心臓が止まるのではないかと思うほどドキドキしたという。
近所の病院を受診し、心電図などの検査から狭心症と診断され、治療を受けるようになった。しかし、その後も胸痛としびれ感がしばしばあったため、当科に来院された。
血液検査で血液のカリウム濃度を測ったところ、正常値の半分以下で低カリウム血症が認められた。握カは両手とも10キログラム程度と普通の人の三分の一になり、
椅子に自力で座っていることもできないくらいに筋肉が衰えていた。
ただちに入院して検査したところ、高血圧や浮腫はなかった。しかし、血液がアルカリ性になるアルカローシスや、腎臓でつくられるレニンというたんぱく質分解酵素の活性と、
腎臓の尿細管に作用してナトリウムを再吸収する働きがあるアルドステロンというホルモンの値が高くなっていた。診断結果はバーター症候群だった。
この症候群は血圧を維持する機構であるレニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系の亢進と血管の血圧を上昇させる反応に障害があり
、尿細管でナトリウムを再吸収する過程に障害が出る疾患である。
原因はまだはっきりしないが、尿細管でナトリウムが再吸収されないため、それ以降の尿細管でナトリウムとカリウムの交換が盛んになり、
血液中のカリウムの尿への流出が増加すると考えられている。
この病気は比較的まれで1年間に100万人当たり1人程度の発症しかない。女性にやや多く、生後から50歳くらいまでの広い年齢層で見られる。
根本的治療法はなく、カリウムを十分に補給することが基本になる。低カリウム血症を改善できれば症状は起こらない。
利尿剤や下剤の乱用、慢性の下痢や嘔吐でもMさんのような症状が起こることがあり、医学的には偽性バーター症候群とも称されている。
|