営業マンのTさんは54歳、身長164センチ、体重69キロとやや肥満タイプ。仕事も食事も時間が不規則で、もっぱらの辛党。
出勤途上のこと、急に両下肢にしびれが広がり、歩くことができず、脱力を感じて道路に座り込んだ。同時に、軽いめまいと冷や汗を感じたが、
意識は正常で動悸もなかった。脱力感が薄れたので会社に出勤したものの、仕事にならず早々に帰宅した。同夜には両手指、足底、太ももにしびれと疼痛が現れ、寒さで悪化した。
翌朝に歩行困難を訴えて来院した。
血液検査では空腹時の血糖値が1デシリットル当たり138ミリグラム、グリコヘモグロビンが6.6パーセントと糖尿病があり、中等度のアルコール性肝障害を認めた。
意識は清明で、血圧は正常。入院後もしびれと疼痛は持続したが、脳の断層写真などに異常はなく、脳梗塞や脳出血は否定された。周期性四肢マヒも内分泌学的に否定された結果、
しびれと疼痛は多発性末梢神経障害によると診断された。
この末梢神経障害の原因は糖尿病か、アルコール性障害によるものと考えられる。Tさんの場合は、合併症もなく高血糖も軽度なこと、また病歴を調べると、
糖尿病になる以前から足底部の軽いしびれ感があったことから、アルコール性障害が疑われた。
末梢神経障害は、糖尿病では四肢、とくに靴下や手袋を着ける部分に起きやすく「ストッキング・アンド・グローブ症候」といわれることもある。
アルコール性との明確な区別は難しい。
糖尿病の人にアルコール性の障害が起こると症状はより悪化するともいわれる。アルコールの直接障害というより、多飲によるビタミンB不足が原因との説もある。
禁酒と食事療法、さらに筋力低下を防ぐためのリハビリ運動によって、Tさんは3週間後には痛みが薄れ、6週間後にはしびれが残っているものの元気に歩いて退院できた。
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