健康栄養インフォメーション


◇◆ 足の先までアルコールづけ ◆◇

考えられる原因 ◆ アルコール性末梢神経障害
 営業マンのTさんは54歳、身長164センチ、体重69キロとやや肥満タイプ。仕事も食事も時間が不規則で、もっぱらの辛党。
 出勤途上のこと、急に両下肢にしびれが広がり、歩くことができず、脱力を感じて道路に座り込んだ。同時に、軽いめまいと冷や汗を感じたが、 意識は正常で動悸もなかった。脱力感が薄れたので会社に出勤したものの、仕事にならず早々に帰宅した。同夜には両手指、足底、太ももにしびれと疼痛が現れ、寒さで悪化した。 翌朝に歩行困難を訴えて来院した。
 血液検査では空腹時の血糖値が1デシリットル当たり138ミリグラム、グリコヘモグロビンが6.6パーセントと糖尿病があり、中等度のアルコール性肝障害を認めた。 意識は清明で、血圧は正常。入院後もしびれと疼痛は持続したが、脳の断層写真などに異常はなく、脳梗塞や脳出血は否定された。周期性四肢マヒも内分泌学的に否定された結果、 しびれと疼痛は多発性末梢神経障害によると診断された。
 この末梢神経障害の原因は糖尿病か、アルコール性障害によるものと考えられる。Tさんの場合は、合併症もなく高血糖も軽度なこと、また病歴を調べると、 糖尿病になる以前から足底部の軽いしびれ感があったことから、アルコール性障害が疑われた。
 末梢神経障害は、糖尿病では四肢、とくに靴下や手袋を着ける部分に起きやすく「ストッキング・アンド・グローブ症候」といわれることもある。 アルコール性との明確な区別は難しい。
 糖尿病の人にアルコール性の障害が起こると症状はより悪化するともいわれる。アルコールの直接障害というより、多飲によるビタミンB不足が原因との説もある。
 禁酒と食事療法、さらに筋力低下を防ぐためのリハビリ運動によって、Tさんは3週間後には痛みが薄れ、6週間後にはしびれが残っているものの元気に歩いて退院できた。



しびれは知覚神経になんらかの異常が起きているときに現れる症状である。 手足の先まで伸びた末梢神経から脊髄を通って脳に情報が伝わる経路のどこかに問題が生じているわけだ。「百薬の長」も、過ぎればさまざまな悪さをする。 肝臓に負担がかかるのはよく知られているが、手足の先にまで害が及ぶ場合もある。肝に銘じよう。
『「痛い」「だるい」は生活習慣病のサイン』 西沢良記 講談社+α新書より

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