Tさんは31歳、印刷会社に勤める独身のサラリーマン。身長170センチ、体重75キロと体格に恵まれ、体力には自信のあるスポーツマンでもある。
1ヵ月に体重が5キロ減ったのに気づいたが、食欲はむしろいつもより旺盛で、「また太るだろう」と放置していた。
ところが、ある朝起きようとすると両足が動かない。両手足がしびれたようになり、全身を脱力感が襲った。驚いたが、4〜5時間するとうそのようにもとに戻った。
その後は用心していたこともあってか何事もなく過ぎたが、動悸とイライラを感じるようになった。
1週間後、友人の壮行会で久しぶりに多飲・多食をした翌朝に、前回と全く同じように下肢が動かず、脱カ感に襲われた。やはり3時間くらいで回復したが、
心配になり病院にかかったところ、甲状腺の腫れを指摘され、血液検査の結果、バセドウ病と診断された。
この病気は白分の甲状腺を攻撃する抗体が血中に現れて甲状腺を刺激、甲状腺ホルモンの合成・分泌が亢進して体重減少、食欲充進、脱カ発作、手の震えなどが起こる。
しばしば眼球の突出や女性の場合には生理不順もある。この全身の脱力はバセドウ病による周期性四肢マヒであった。通常は甲状腺機能を抑える薬で治せる。
Tさんも毎食後2錠ずつ飲むようにと抗甲状腺剤を渡され、3ヵ月ほどでかなり回復した。
しかし、このころから、ものが二重に見えたり、目が大きくなった感じがするようになり、医師に相談したところ眼球突出がひどくなっていると告げられた。
じつはTさんは初診時にも軽度の眼球突出があった。薬が効いて脱力発作などはなくなったのだが、問題は薬の飲み方にあった。独身生活のため食事が不規則で、
毎食後2錠ずつのところを1度に1日分の6錠を服薬したり、発作を恐れて、少なめよりは多いほうがいいだろうと増やしたりしていた。
亢進していた甲状腺機能を急に正常化したため、眼球突出那ひどくなったようだ。その後、Tさんは指示どおりに薬を服用、経過も順調だという。
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