前立腺肥大症について

 寒い季節になると、排尿の悩み、ことに尿回数の増加や排尿力の低下を訴えて泌尿器科を訪れる患者さんが増加します中でも男性患者さんの前立腺肥大症は、高齢化に伴い増加している代表的な疾患です。
 ●前立腺、前立腺肥大症とは●
 前立腺は膀胱の出口に位置するクリの実状の臓器であり、精液の液体成分を分泌する男性生殖器の一部です。25歳を越えると腺組織が徐々に肥大し、70歳を超えると80%に肥大症を認め、そのうち40%に何らかの症状を呈するようになります。
 肥大した前立腺が尿道を圧迫することにより排尿を妨げるようになります。ことに寒い季節、あぐらをかいて飲酒したその夜に、突如排尿困難となる場合が多いようです。排尿困難とは、排尿開始までに時間がかかる(遅延性排尿)、排尿力が弱く排尿終了までに時間がかかる(ぜん延性排尿)、排尿が終わってもまだ膀胱に尿が残っている感じがする(残尿感)、頻回に排尿したくなる(頻尿)、といった症状のことです。時には全く尿が出なくなることもあり(尿閉)、尿道を通して膀胱に細い管(カテーテル)を挿入し排尿させる(導尿)といった緊急処置が必要となります。逆に、思うように排尿出来ないにもかかわらず、しばしば尿をもらす(尿失禁)といった不思議な現象を伴うこともあります
 ●診断方法●
 前立腺肥大症の診断には、直腸内指診、エコーやレントゲンによる画像診断、排尿スピード測定や膀胱内圧測定といった水力学的検査法などが一般的です。鑑別すべきものとして、前立腺癌があります。前立腺癌は文字どおり前立腺に発生した癌であり、近年増加していますが、前立腺肥大症とは直接の因果関係はありません。
 ●治療法●
 近年の医学の進歩は目覚しいものがあり、前立腺肥大症の治療の分野においても、より侵襲の少ない手術方法や種々の薬剤が開発されています。従来から開放手術(いわゆる開腹手術)や電気メスで前立腺を削り取る内視鏡手術が盛んに行われてきましたが、前立腺組織内の自律神経支配の研究により、最近では薬物療法が急速に普及しています。また、電磁波やラジオ波による前立腺高温度療法、レーザー光線や超音波を用いた前立腺凝固治療など、さまざまな治療法が開発され、術後の痛みや輸血の心配がほとんど無くなりました。
 ●予防法●
 前立腺肥大症の危険因子追求に向けて、様々な研究がなされていますが、食事、喫煙、婚姻歴、性活動などとの間に明らかな因果関係は得られていません。一方、加齢現象としての前立腺の肥大は避けられずとも、多少とも発症を予防することが出来ます。一般に深酒は禁物です。また、刺激の強い香辛料も悪影響を及ぼすと言われています。長時間のあぐらや自転車、バイクのサドルによる会陰部圧迫も避けるべきでしょう。また、市販の風邪薬や下痢止め、睡眠薬といった薬物の中にも排尿困難を助長させる成分が含まれていることがあり注意を要します。
 世界一の長寿国、人間ドックや市民検診により疾病の早期発見に努めることはもとより、予防すべきは予防し、いったん発症したからには老化現象だからとあきらめずに、それにふさわしい治療法を選択して、快適に健康寿命を延ばしたいものです。

                                          医仁会武田総合病院 副院長
                                                     東 義人

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