『結核緊急事態宣言』発令中

 ここ数年、各地で肺結核の集団発生が報じられ、死亡例も報告されている。集団発生は、肺結核患者の喀痰中の結核菌による飛沫感染が原因であるので、病院や老人福祉施設など集団生活の場で、特に注意が必要である。
 肺結核は、わが国において、長い間、死に至る病の第一位を占め、1950年(昭和25年)の死亡数は年間121,、769人に及んでいた。その後、各種抗結核剤が導入され、結核予防法も功を奏し、急速に激少して、平成9年には2,736人に下がっている。結核の罹患率も平成8年まで順調に低下し、33.7/100000に達していた。
 しかし、この罹患率の値は諸外国の値、例えばスウェーデン5.6、オーストラリア5.7、カナダ7.0、米国10.2、フランス12.9、に比べると、まだまだ高値であり、罹患率は今後も低下してゆくものと考えられていた。最近、前記のように、結核集団発生の報告が相次いでいる。
 厚生省の統計によると平成9年の年間結核新登患者数は、42,715人で前年比243人増と、38年ぶりに、減少から増加に転じており、罹患率も平成8年の33.7から平成9年には33.9と増加している。厚生省は肺結核の全国的な急激な蔓延を危惧して平成11年7月結核緊急事態宣言を出している。
 結核菌は感染後10〜20%が肺結核症として発病するが、発病しない例では、4〜8週間で免疫を形成し、ツベルクリン反応陽性となり、感染部に治癒機転が働いて石灰沈着を起こして安定化する。しかし、安定化したものでも、病巣中に菌は生存しており、糖尿病や抗がん剤の使用、腎機能障害、高齢などによる免疫能の低下や、諸外国ではHIV感染症などが誘因となって10年後、20年後に発病することもある(既陽性発病)。
 近年肺結核症の減少により、19歳未満では97%、20歳代でも95%以上はツベルクリン反応陰性なので感染源と接触すれば発病し易い。これが集団発生の原因となっていると考えられる。ツベルクリン反応陰性者が排菌者に接触する恐れのある場合は、万全ではないが、BCG接収を受けておくこと、接触した場合は、十分な経過観察を受けるとともに、場合によっては、ヒドラジドなどの予防投薬を受けるなどして発病を予防しなければならない。また、ツベルクリン反応陽性者は、体力保持に注意し、既陽性発病を起こさないよう気をつけなければならない。
 いずれにせよ、咳や痰が2週間以上続く場合は、肺結核を疑って呼吸器科の専門医を受診して万全を期したい。

                                        医仁会武田総合病院 副院長
                                               呼吸器科 久野 健志
                                                                       back
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