ペースメーカー・ICD治療と社会生活

 永久ペースメーカーや植え込み型除細動器(ICD)は心拍が病的に遅すぎたり速すぎたりするために生命に危険が生じる患者さんの健康を守る器具として多くの方々に植え込まれています。植え込み後は基本的に他の健康な人と同じように日常生活を送ることができますが、電磁波・磁場による影響に注意が必要です。
 例えば、体に直接電流を流す低周波治療器や針治療、強度の磁場が発生するMRI検査などは避けなくてはなりません。家庭内では電磁調理器やIH式炊飯器の使用を控えることが、また外出時には盗難予防装置で立ち止まらないなどの注意が必要です。携帯電話からの影響については、国の指針により携帯電話をペースメーカーやICDから22cm以上離すよう指導されています。しかし、22cm以内に携帯電話が近づいたかといって直ちにペースメーカーなどに異常をきたすとは限りません。最近のペースメーカー・ICDではかなり電磁波対策が進歩しつつあるのも事実です。担当医から自分の機種の特徴を聞き、日常生活で過度に神経質にならないようにすることも大切です。
 ICDは不整脈発作時に電気ショックが 働くため、患者さんの不安感が永久ペースメーカーに比べて大きい傾向があります。 当科では3年前よりICD患者さんとそのご家族の方のための勉強会を開催してきましたが、これを基盤に当院でICDの植え込みを受けられた患者さんが中心になって関西 ICD友の会が昨年、誕生しました。患者と病院が一体となって運営するICD友の会は全国的にも他に例がなく、東京をはじめ全国より植え込まれた方の参加がありました。また、歴史があるペースメーカー友の会とも連携をすでにとりつつあり、今後の友の会活動の発展が期待されます。
 昨年7月に、米国のチェイニー副大統領は心筋梗塞後の重症不整脈の予防的処置としてICD植え込みを受けました。その後ニューヨークにおける9月11日のテロ事件がありましたが、彼はブッシュ大統領とともに国際的テロ対策に大変活躍しています。こうした治療器具の植え込み後でも社会的に大きく活躍できることを彼は証明してくれたと言えるでしょう。
 またペースメーカーやICD治療とは関連のないと思われる一般の方でも、現代社会においてはこうした治療器具に無関心でいる わけにはいきません。携帯電話の電源を病院内や混雑した電車内ではOFFとする注意は当然ですし、不整脈によるショック状態のためICDが作動するまでの一瞬の意識低下により倒れかけている人がある場合には支えてあげることも重要です(ICD作動時に 患者さんの体に周囲の方が触れていても問題ありません)。
 現在米国では重症の頻拍症による突然死を防ぐため公共施設、飛行機内等には体外式自動除細動器が配置され講習を受けた一般人がこれを操作できるシステムになっています。先日、日本の航空機内でも医師が居合わせない場合、訓練を受けた航空機の搭乗員が除細動器を使用できるよう国が決定したことが報道されました。
 いつ、誰に突然死をきたす不整脈が襲いかかるかもしれません。しかし重症不整脈の危険から救命し、ICD治療へと繋いでいく時代はすぐそこまで来ています。そのためにはぜひとも社会一般の理解と協力が必要なのです。

                                        医仁会武田総合病院 不整脈科
                                                       部長 池口 滋

                                                                       back
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