ミレニアム医療を考える

 ミレニアムのアドバルーンが打ちあげられた頃より、各分野において変革の回転軸は、その速度を急激に増してきたような感を持つ。医療の領域に於も然りである。 私が医師になったのは1947年、以来半世紀の医療の変革の歴史と共に生きてきた人間として、今一度立ち止まって振り返り、明日を考えてみたいと思う。
 1950年頃の医療と云えば、結核、肺炎・気管支炎、胃腸炎、急性伝染病の対策が主であった。治療は専ら安静と栄養重視、薬は、解熱剤、鎮痛剤、サルファ剤位で、患者の自然治癒力に委ねるしかなかった。 国民の平均寿命は50歳に満たなかった。ペニシリンが導入されたのは1947年頃、50年代に入ると、坑結核剤、ストレプトマイシン、次いで降圧剤、利尿剤、インスリン、ステロイド、向精神薬が開発された。気管内麻酔が行われるようになったのもその頃である。 50年代後半には次第に社会保障も拡充され、60年には国民皆保険も導入された。
 その後の医療はめざましい質的変革をとげるが、これに拍車をかけたのは、70年代から始まったメディカル・エレクトロニクス(ME)の発達で、医療技術のコンピューター化、自動化が進むと共に、CT、MRIをはじめとして種々の診断・治療機器が次々開発されたことである。この傾向は今日に至るが、国民の平均寿命も80歳になった。
 20世紀後半の医療を総括すれば、より良き治療を行うための飛躍的な技術と医療機器の発達の歴史と云えよう。加えて、現今は臓器移植、遺伝子治療が行われ、21世紀には移植医学、再生医学、人工臓器の研究が予測される。
 このような医学の進歩は、生と死のコントロールも可能にしたが、医療は、医学のみでなく、倫理学、哲学などのコンセンサスの上に進歩して行くべきと私は考えている。
 今年は、世界中の大人や子供から愛読された 〝星の王子さま〟の作家、〝サン・テグジュペリ〟の生誕百周年になる。この作品の中で、狐は王子さまに、〝肝心なことは目に見えないんだよ。心で見なくちゃ、物事はよく見えないんだよ〟と話している。
 一人の患者と向き合うとき、言葉少なく、もどかし気に話す患者の心を、その訴えを、誠意をもって汲みとることは、最新のメディカルITを学び、医療機器を駆使することと共に、車の両輪として必要なことではないかと私は常々考えている。
 近年頻発する医療事故は、患者との心の交流をややもすると疎かにする故ではないかと危惧するのである。

                                        医仁会武田総合病院
                                                   名誉院長 半田 肇
                                                                       back
Copyright by Health & Nutrition Information 2001-2005